それは2月の中旬のウイーク・エンドだった。
霙(みぞれ)の降る寒さのきびしいニューヨーク滞在も3週間になり、連日のハード・ワークにいささかくたびれはてた頃、ワシントン・バースディの祭日で土、日がつながり、3連休になった時があった。同行していた二世のユキさんが、この休みを利用して、彼の友人のいるフロリダのフォート・ローダーデイルに行ってみないか、と提案してきた。
この街は、もうだいぶ前の映画「ボーイ・ハント」の舞台になったマイアミのひとつ手前の町である。
さっそく、ラ・ガーディア空港から、ユナイテッド・エア・ラインに乗って飛び立つ。約2時間、小さいが清潔なフォート・ローダーデイル・エア・ポートに着く。空港には、彼の友人、ウイリアム・ナイカーク氏が、真赤に日焼けしたたくましい腕をのぞかせた半袖シャツ姿で迎えに来ていた。
ターミナルから一歩外に出ると、2月というのに、ここは、ぎらぎらした夏の太陽が照り輝いている。ナイカーク氏は、この町で、ダッツン(ダットサン)やトヨタなどの日本車専門の修理工場を経営している中年の紳士である。「人生を楽しむために結婚はしない」といっていたから、相当のプレーボーイなのだろう。
空港から30?40分走って、彼の家に着く。アメリカの家としてはそう広大というほどではないが、庭先を見て驚いた。そこには、プライベート・キャナル(自宅の庭先に船がはいれるように掘った自家用運河)が掘られ、トイレからキッチン、ベッドのあるキャビンまでついた大型スクナーがつながれていたのである。
翌朝10時、さっそく彼のヨットに食料品と飲物、そしてガール・フレンドまで積んで出発する。
エンジンは日本製のヤンマー・ディーゼルで、これが故障がなく気に入っているとのことだ。
ウイリアム、通称"ビル"は、客の私に敬意を表して、キャプテン・ハットを貸してくれ、自分は無帽で、上半身裸、下はショーツ風に短くカット・オフした洗いざらしのジーンズという無造作な格好で船尾で舵を操っている。ジーンズにしめた、鯨の形のバックルの付いたベルトがユニークだ。
「バーテンダー、メイク・ザ・ドライ・マティーニ・プリーズ!!」なんてユキさんにどなっている。
ユキさんもこれに「アイ・アイ・サア・キャプテン‥‥」と冗談で応えている。
こうして、ガール・フレンド手製の、ツナ・サンドイッチをつまみ、ビールやカクテルを飲み、あの有名な"バーミューダ・トライアングル"の入口まで行って、楽しい1日の航海は終わったが、さすがにアメリカは広い。ニューヨークでは、冬の真最中、毎日のように雪が降っているというのに、フロリダではこのように、クルージングや水泳が可能なのである。
ニューヨークでも、高価なメンズ・ショップになると、冬の真最中でも、スイム・ウエア等が並べられているが、その理由が、このフロリダ行きの体験で理解されたのである。
アメリカの業界では、春夏ものの準備は、前年の9月のレイバー・デイ開けから始まる。したがって、日本よりは完全に3〜4カ月は早いのだが、今、この原稿を書いていると、その時に見聞きしたことを思い出さなくてはならないので、いささか勘が狂うのだが、手許にある資料を調べながら、アイビー・ムードいっぱいの今年のカジュアル・ウエアの傾向を順を追ってみよう。