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初めて、このホームページをご覧になる方のために、ごく簡単に、これ迄の経緯を説明しておこう。
同時多発テロは、2001年9月11日午前8時45分、NYの世界貿易センタービルの北棟に、ボストン発のアメリカン・エアライン11便のボーイング767型機が、何の前ぶれもなく激突したことから始まった。
その直後、日本から飛んだ私は、ブッシュ大統領やジュリアーニ市長が、見事なリーダーシップを発揮するのを見た。
そして、自分の命を犠牲にしても、救助活動を行ったファイア・ファイター(消防士)たちはヒーローになり、街は星条旗に溢れ、星条旗が売れに売れて、ついには五番街に、星条旗を背中にしょった行商人が現われた。
以上が、これ迄のストーリーである。
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ある日曜日の晩、ニューヨークに行くといつも寄る友人のA氏の家に食事に呼ばれたら、彼は「昨日、閉店後、サックスで上得意だけの、軽い夕食付きのセールに招待されていったよ、そしたら5階に、新聞で名前だけ聞く有名デザイナーが、ズラリと並んで出迎えてくれた。彼等が自ら品物を選んでくれたので、ワイフはもう夢中。ちょっと高かったが、
色々買ってきたよ」とニヤリ、プライドをくすぐられたのか満更でもない様子である。
これは私自身の経験だが、六十六丁目のブロードウェイの「エディー・バウアー」に言って驚いた。
いつも行く店だが、今回は、まだシーズン始めというのに、レザーウェアが全品100ドル引きの表示が出ている。
女物の売場に、身頃がレザーで、袖がニットの198ドルのジャンパーが出ていた。これは全部革ではないので、100ドル引きではないだろうと思って店員に聞くと、「もちろんこれも100ドルお引きしますよ」との答。さっそく、半値よりまだ安い98ドルで買って、得したみたいな気になった。
これらの、不況に負けてなるものか、というニューヨーカーの負じ魂のたくましさこそ、暗黒の同時多発テロ事件の中を照らす、一筋の明るい光に違いない。 |
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「アー・ユー・セーフティー?(ご無事ですか)」
という言葉が日常のあいさつになった
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私の泊まっている四十五丁目のコンドミニアムの近くに、小さいがちょっと洒落た日本レストランがある。値段が少し高いのが玉に瑕だが、味はかなりよく、何よりも有難いのは、この店の寿司シェフ(アメリカでは、寿司を握る職人をこう呼ぶ)は、名前は知らないが、むっつり型の多い職人の中で、人当たりがとても良い。
今回のニューヨーク行きは、日本でアポイントしていた三社とも、テロ以来、売上げが急激に落ち込んでいるのが原因だろう、毎日毎日会議の連続とかで、丁寧にだが「何とか次回にしてもらえないか」とキャンセルされてしまった。
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たまたまイタリーから届いた消防士の象が・・・ |
消防士をたたえるレリーフ
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そんなわけで、時間もあったので、この店を思い出し、行ってみた。
カウンターに座って、今日のおすすめを肴に熱燗でちびちびやっていると、9時過ぎ頃のこと、入口から、中年だがよく身づくろいした黒いスーツの女性が入ってきた。
ダナ・キャランのものだろうか、着ているテーラード・スーツも上質で、これはきっと、名前の知られた会社のしかるべき地位の女性に違いない。
この時間だから、私は、会議でも長びいて、家に帰って食事するのも、と思って、ここに寄ったのだろうと思った。と、シェフがこの女性を目ざとく見付けて、かなり日本語訛りのある英語だったが、「アー・ユー・セーフティー?ミズ○○」と呼びかけたのである。
彼にとっては、何気なく使ったのかもしれないが、たんなるあいさつに、「無事か?」と聞く言葉に、私は昼間見た「グランド・ゼロ(ワールド・トレード・センター跡地を今こう呼ぶ)」に残された無数の鉄骨と、ニューヨークが今、置かれている状況を知ったのである。
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リセッション(景気後退)の気配濃厚
アメリカでは、リセッション、つまり景気後退というのは、四半期に二回連続でマイナス成長であった場合をいう。
どうやら、9月11日以降、アメリカはこのリセッションに陥った気配濃厚なのである。
米商務省は10月31日、2001年の第三・四半期(7月〜9月)の国内総生産(GDP)を発表したが、これは日本の各紙にも発表されているので、これを転載してみよう。
「『米、マイナス成長、7〜9月年換算0.4%減、8年半ぶり』
米商務省が31日に発表した2001年第三・四半期(7月〜9月)の国内総生産(GDP)実質伸び率の速報値は、年率換算で前期比0.4%減となり、1993年1?3月期(0.1%減)以来、8年半ぶりとなるマイナス成長を記録した。
0.4%減の成長率は、湾岸戦争中の91年1〜3期(2.0%減)以来の低水準となる。景気減速の長期化に加え、9月の同時テロの影響で、GDPの約三分の二を占める個人消費の伸びが大きく鈍化するとともに、企業の設備投資も引続き大幅なマイナスとなった。」(読売新聞11月1日朝刊)
「GDPマイナス0.4%、テロ後消費急降下、収益源、投資の足かせに
同時テロの影響で米経済の回復時期がずれ込む可能性が出ている。7〜9月期の米実質経済成長率がマイナスになり、10〜12月期もマイナス成長が続くとの見通しが強まっている。炭疽(たんそ)菌事件や新たなテロへの不安から消費者、企業の心理が冷え込み、内需の柱の消費、投資がさらに下振れする懸念があるためだ。」(日本経済新聞11月1日朝刊)
「米失速、世界震える景気悪化底見えず」
米商務省が発表した7〜9月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は前期比0.4%減となり、十年余りにわたり景気拡大を続け、世界経済を引っ張ってきた米国経済の失速を裏付けた。情報技術(IT)バブルの崩壊に、同時多発テロの影響が追い打ちをかけ、景気の回復時期が大幅に遅れるのは必至で、日本や欧州、アジア経済への影響は避けられない。世界経済は同時不況の様相を強めてきた。
(朝日新聞11月1日朝刊)
アメリカのメンズ専門誌DNR(デイリー・ニューズ・レコード)は、もっと詳細にこの一ヶ月の様子を伝えている。
「ニューヨークでは、住民はゆっくりとうわべだけでも平常に戻ろうとしていた。」
通りのムードは暗く、静けさと悲しみの代わりにサイレンの悲しげな音とF16戦闘機のうなりが響いていた。まるでニューヨーカーが必死にアタックの現実に対処しようとしているかのように街じゅう公園等で行方不明者や死者の為の仮のメモリアルサービスが行われていた。
オフィスは再開されたがとても警備が堅い。アパレル業者が無数にあるエンパイヤステートビルディングでは警察のバリケードの後ろに列を作ってビルに入る許可を得るために身分証明書を見せなければならなかった。ダウンタウンから現地に行こうとするすべての車両や歩行者をとめるカナル通りでも同じような光景が見られた。そのラインを超えるのを許されたのは住民またはそこで仕事をする人で写真付き身分証明書と名刺を見せなくてはならなかった。(中略)
経営者たちはこの長引いているスランプがさらにわるくなるのではないかという恐れを表すように、これらのすべての要素がいっしょになって業界に暗い影を落としているのだ。9月は秋物がレギュラー価格で売れるとても重要な月なのだ。仕事が追いつかないと来年までに回復する可能性はほとんどない。(中略)
人々は衣服ではなく、食料、プロパン、ろうそく、それに星条旗など、基本生活物資を買い込んでいる。
デパートでは、アパレルの売り上げが、もっともシビアなものになるだろう。
人々はまるでゾンビみたいに歩き回っているだけだ。倒壊したビルの跡を見るために人は集まっているが、見ているだけで、決してスーツを買う気分にはなれない。」
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しかしどの店も健気に頑張っている。
テロ直後のNYファッション業界 ウエスト・ブロードウェーにある有名なネクタイ・メーカー「ボウ・ブランメル」の共同経営者アブラハム・ゴールドマンはこう言っている。
「売上げはしばらく苦しいが、いずれは元に戻るだろう。ニューヨーカーは強いので、このようなショックから脱出するのは時間の問題である」と。
事実、私もニューヨーク滞在中にデパートの個々のストアが色々なチャレンジをやって、売上げの回復を試みているのに出会った。
他にもあるかも知れないが、私が実際に経験したことのみを紹介しよう。
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高級百貨店の「サックス・フィフス・アベニュー」の五番街にある本店では、10月19日(金)の夕方6時から、5階のフロアに、上得意を招いて、サンドイッチやカナッペなど簡単な食べ物にワインやシャンペンも出して、今年の秋物の紹介販売をした。
別に安くしたわけではないが、普段はテレビやファッション誌でしかお目に掛かれない有名デザイナーも参加して、自分のコーナーの前に立ち商品の説明をし、顧客にカレンダーやチョーカーなどをプレゼントしたから売場は盛り上り、かなりの売上げを記録した、とのことである。
高級百貨店らしい、とても素敵な演出ではないか。
いつも行くブロードウエーの「エディー・バウアー」に行って驚いた。全レザー・ウェアがシーズン始めというのに100ドル引き、という表示がされている。
「エディー・バウアー」は、一年ほど前に、あのジョセフ・グロメック社長と共に「ブルックス・ブラザース」で活躍した、ジャラス・メレット筆頭副社長兼デザイン・デレクターを引き抜いて、商品デザインの最高責任者にして以来、商品もぐっと洗練されて、都会的になった。
地下一階の婦人物の売り場で、身頃が革、袖がニットの洒落たデザインのものがあった。
プライスを見ると198ドルとのこと。レザーウェアでは一番安いものでこれはまさか100ドル引きの対象商品ではあるまい、と思って店員に聞くと、レジで98ドルにするという。
得した気持ちになって、さっそく買ったのは言う迄もない。
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このように、発注量の多かったものは、シーズン始めでも、限定セールを掛けて買い切ってしまおう、という。早め早めに手を打っているのは、真似したいところである。
ある日の夕方、ロックフェラー・センターの「Jクルー」に行ってみたらかなり混んでいる。
レジ前には行列が出来ていた。何かと思って聞いてみると、レジに並んでいる人は、簡単な、一色刷りのダイレクトメールを持っている。
特定客だけに、日時をきめた、全部30%引きのセールである。
もちろん、売場のプライスには何も手を加えていなく、レジの所で引くので、その時間が過ぎれば、平常に戻ってしまう。
質問した私はセーターを買おうとしていたのだが、ちょっと毛色が変わって目立ったのか、男の店員が「これを使って‥」と、30%引きの招待状を持ってきてくれた。
「ブルックス・ブラザース」の五番街店で、ネクタイ売場に、「1本買えば、他の1本は30%引き」と書いてあった。
大概の人が、1本ではなく2本まとめて買っている。私もつられて2本買ったが、コンドミニアムに帰って、レシートを見たら、なんだ1本あたり15%の値引きじゃないか。
ちょっとした錯覚だが、全品15%引きよりずっと安く感じるし、又、大半の人が2本まとめ買いするので、これは上手な方法だろう。
又、こんなものもあった。
「ストラクチャー」のブランドが「エクスプレス」に統合されて、「エクスプレス・メン」になる、というので、今、各店で大々的にセールをやっている。
そしてそこでは、50ドル買ったら、次の50ドル分は、25ドル払えばいい、というクーポンをくれるという。
「ストラクチャー」は好きなブランドだったので、2、3品買って、クーポンをもらって、意気揚々とコンドミニアムに帰って来て、裏面の小さな活字を拡大鏡で見てみると、何と、そこには、使用出来る期間が書かれてあった。
それも、すぐではなく、一ヶ月ほど先の月日である。これでは、我々みたいに、2ヶ月半ごとにニューヨークに来るものには使えない。
結局、机の引き出しの中に、今でもしまってあるが、こんな、商魂たくましい例を見るにつけても、ニューヨークのファッション界は、あまり日を置かないうちに、復活してくる、と思った次第である。
(終)
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